身近な自然に触れ合う(笹間ヶ岳)
梅雨時期に足を運ぶ金勝アルプスと真夏に探索する湖南アルプス…二つの山域とも「湖南アルプス」と呼ばれ地元の方に親しまれています。今回は、大津市南部の田上(たなかみ)地区から大石地区に連なる標高400~600メートルの山域にサギソウとハッチョウトンボに出会うために歩いてきました。笹間ヶ岳をメインに矢筈ヶ岳や太神山、堂山などを巡るのですが、今回はスタート時間も遅く、体調も万全ではなかったので、富川道から笹間ヶ岳の区間をピストンで歩いてきました。
いつものように富川道登山口近くの駐車地に車を停めましたが、平日なのに最後の1台分のスペースだけでサギソウ目当ての方が多いことが伺われました。下山時には、路駐している車も多くありました。登山口付近が満車の場合は、田上公園の駐車場に停められることをお勧めします。
富川道は、古くからハイキングコースとして笹間ヶ岳や矢筈ヶ岳へ続く多くの方が歩かれている道です。金勝アルプスと同じく保水力がない山で、いたるところで水の流れが見られる湿潤な山域です。この山域も森林伐採で一度はげ山になって、治山事業として砂防提が多く、植樹事業が進められてきました。山域全体の植樹率は60%を超えていると言われています。
御仏河原周辺から湿原地が広がり始め、湿原を好む山野草が多く自生しています。
この山域を訪れる目的のひとつが、ハッチョウトンボ(八丁蜻蛉、学名:Nannophya pygmaea)です。日本一小さなトンボとして知られ、近年の開発や環境汚染により著しくその数を減少させています。毎年この時期には、数匹から十数匹確認できるのですが、今回は一匹しか確認できませんでした。キイトトンボの産卵行動を見ることはできましたが、その他のトンボも数が激減している感じでした。何かの原因で生息数が減少しているのではないかと心配です。
この池でブラックバスを見るのは初めてでした。閉ざされたこの池に勝手にブラックバスが繁殖することはありません。昔からなら仕方がありませんが、近年人によって持ち込まれたとしたら、ハッチョウトンボを含め在来の生き物に影響が出ることは間違いないと思われ危惧しています。
今年も、大好きなサギソウ(鷺草、学名:Pecteilis radiata)に出会ってきました。サギソウは夏の季語にあげられるほど昔から身近な植物で日本各地の湿地で見ることができました。しかし、湿地の埋め立てによる住宅地、工業用地、農地などへの転用で、現在は自生地が減っています。比較的繁殖力の強い種だということで、残された自生地では今でも元気にな姿を見せてくれています。
サギソウが咲く湿原には、その他にも多くの山野草を見ることができます。ミミカキグサの仲間やミカヅキグサ、イヌノヒゲ、ヤマイ、オトギリソウなどが咲いていました。どれもとても小さな花なので写真に収めるには苦労します(笑)
大谷河原から笹間ヶ岳へは、先ず尾根へ登ります。この道もよく歩かれている道で危険な個所もなく安全に歩くことが出します。ただ、この時期は樹木特にシダ類が茂り、道を覆っている箇所があるので足元を確認しながら歩いて下さい。
天神川を挟んで対岸の堂山周辺は、金勝アルプスと同じように花崗岩の岩肌がむき出しになった岩場が続く山域ですが、笹間ヶ岳や矢筈ヶ岳、太神山周辺は、比較的岩場が目立ちにくい山域です。笹間ヶ岳周辺も数か所岩場が現れますが、アルプスと称されるほどの印象はありません。
この山域で、ミヤマウズラ(深山鶉、学名:Goodyera schlechtendaliana)を見たのは初めてでした。数株の小さな群落でしたが、咲き初めのようで可愛い花を見ることができました。濃緑色の地に白い網目状の斑が入る葉っぱが、ウズラの羽の模様に似ていることが名前の由来となっているそうです。その模様には個体差があり、美しいものは「錦蘭」と呼ばれ珍重されると言われています。
金勝アルプスも同様ですが、この山域も昔は檜が生い茂っていたそうです。藤原京造営やその後の平城京遷都や寺院の造営などに際して、田上山のヒノキを数万本伐採して用いたとされてます。このため田上山ははげ山となったそうです。その後、治水工事、治山工事とともに植樹事業が行われ、徐々に山に緑が戻ってきたそうです。
田上山(たなかみやま)の一角をなす笹間ヶ岳(432.9m)の山頂には、三等三角点(基準点名:権現山)が設置されています。その山頂部には、小さな家程ある大きな岩が鎮座していて、木製の梯子で上がることができます。大岩からの眺望は素晴らしく、千頭岳・音羽山・比叡山・比良山系の山並み、大津市街地と琵琶湖を一望できます。