真夏の飛翔ふたつ(笹間ヶ岳)
滋賀県南部に広がる低山地帯は、北部は阿星山・龍王山・鶏冠山を中心とする金勝(こんぜ)アルプス、そして南部は、堂山・笹間ヶ岳・矢筈ヶ岳・太神山を中心とする湖南アルプスと呼ばれています。両山域とも花崗岩質の山で風化が激しく、花崗岩の奇岩が露出した独特の風景を見せています。この山域は植生も豊かで、湿地に自生する花が多く咲きます。金勝アルプス周辺では、6~7月にカキラン、キンコウカ、ノギラン、モウセンゴケ、コバノトンボソウなどが咲き、湖南アルプスでは、サギソウ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、ミカヅキグサ、オトギリソウなどが咲きます。また、湖南アルプス周辺は、トンボの種類も多く、日本一小さいトンボ『ハッチョウトンボ』を見ることができます。金勝アルプスも湖南アルプスも水が豊かで山全体が湿地帯になっているのが、動植物の生態系にも影響しているのだと思います。
今年は、異常なほどの猛暑が続いていて、いつもなら足を延ばす堂山や矢筈ヶ岳には寄らず、笹間ヶ岳をピストンするルートを歩きました。標高差も少なめの7km程度の山歩きにもかかわらず、飲料水2ℓを飲み干すほど猛烈な暑さと湿気でした。
金勝アルプスも同じような特徴がありますが、山域全体が保水力が弱く、山肌を絶えず水が流れている状態です。所々に池があり山全体が湿潤な環境にあります。そのため登山道にも水の流れがあるところもあります。
御仏堰提の上流部には、花崗岩の岩盤が露出した御仏河原が広がっています。上部からは遠く琵琶湖の一端が垣間見える眺望もあり、水の流れもあるので、休憩したり食事したりする場所として最適です。ただ、日差しを遮る木々がないので猛暑の夏は厳しいです。
山に水を溜める力が乏しいこの山域には、いたるところで池とも言えない水たまりのような場所が多くあります。もちろんもう少し規模が大きい池もありますが、そういった湿地帯にサギソウなどに代表される湿生植物やハッチョウトンボなど多くのトンボ類を見ることができます。
ハッチョウトンボは、主として平地から丘陵地・低山地にかけての水が滲出している湿地や湿原、休耕田などに生息して、ミズゴケ類やサギソウ、モウセンゴケなどが生育し、極く浅い水域がひろがっているような環境を好むということで、まさにこの山域は最適な生息場所です。実際見ると本当に小さいトンボです。オスはパートナーを探すために草木に止まりメスを待っているとのことです。
ハッチョウトンボとともに、真夏に飛ぶ真っ白いサギソウは、この山域を象徴する植物です。サギソウに纏わる伝説は、数種あるようですが、地元の里山近くの湿地帯にも以前はたくさん咲いていたそうです。昔は人里近くに多く咲いていた花のようですが、今は限られた場所でしか見ることができなくなっています。多くの花を見てきましたが、これほど繊細で名前の由来に違わない花は数多くはないと思います。この山域で二つの飛翔がいつまでも見られるように大切に見守っていきたいです。
大谷河原は、花崗岩が風化し細かく砕かれた砂が堆積した場所です。細い水の流れがあり全体的に湿潤な環境が保たれています。端には池もあり、サギソウやミミカキグサなど湿生植物が多くみられます。この場所も真夏は照り返しが強く、とても暑いです。
笹間ヶ岳は、湖南アルプスの南端に位置する山です。山頂の大岩の下に、三等三角点「権現山(432.9m)」が設置されています。大岩の上からは、湖南の街並みや比叡山、鞍馬山、琵琶湖が一望できます。