行者は還り稚児は泊まりぬ
行者がへり、稚児のとまり、続きたる宿なり。春の山伏は屏風立と申す所を平らかに過ぎんことをかたく思ひて、行者、稚児の泊まりにて、思ひわづらふなるべし。(西行法師/『山家集(さんかしゅう)』
ご存知の方も多いと思いますが、行者還岳は役行者をも阻んだ急峻な峰ということで命名されたと言われています。山頂は南側に傾いた烏帽子のような形で切り立った岩壁に阻まれています。登山道はこの峰の東側をトラバースしていて、山頂へはなだらかな北側から容易に登ることができます。
稚児泊は七曜岳と国見岳の鞍部にあたり、かなりの人数が野営できる平地があります。「順峰(じゅんぶ)」でいうと行者還岳、七曜岳、稚児泊から国見岳を経て弥勒岳に向かいますが、 稚児泊から弥勒岳に向かって「内侍落とし」「薩摩転げ」「屏風ノ横駈」という難所が続きます。子供のような泣き言を言うようではここ(稚児泊)に置いていくと言われたのではないかと伝えられています。※行場を巡る方法には、本宮から吉野に向かう順峯(じゅんぷ)=天台宗系の聖護院(本山派)主導、逆に吉野から本宮に向かう逆峯(ぎゃくふ)=真言宗系の醍醐寺三宝院(当山派)主導する二通りがあります。
今回は、七曜岳から大普賢岳を目指すつもりで歩を進めましたが、日没時間が早くなっているので三国岳までのピストンとしました。七曜岳までの穏やかな尾根道とは異なり、稚児泊から三国岳にかけては鎖場や朽ちた梯子が架けられたトラバースが続きます。注意して進めば問題はありませんが、少しの油断や気の緩みは命取りになる区間です。季節、落葉などの状況、自然崩落、浮石などに十分注意して時間をかけて慎重に歩を進めて下さい。この区間が 「内侍落とし」「薩摩転げ」「屏風ノ横駈」 と言われる難所にあたるのだと思いますが、明確な場所は特定できていないようです。
大普賢岳を和佐又山ヒュッテを起点に周回するルートがありますが、大普賢岳から七曜岳、また七曜岳から和佐又山ヒュッテまでの区間は、鎖場などの難所、小さなアップダウン、和佐又山への登り返しなどで登り下りともに時間がかかる行程になります。登山計画は時間的な余裕を持って立てるようにしましょう。