神秘の花を探して(御池岳)
クマガイソウ(熊谷草、学名:Cypripedium japonicum)は、ラン科アツモリソウ属に分類される多年草。同種のアツモリソウとともに膨らんだ形の唇弁を武士が背負った母衣(ほろ)に見立て、源平合戦の熊谷直実(くまがいなおざね)と一ノ谷の戦いでその熊谷直実に討たれた平敦盛(たいらのあつもり)から名前を付けられたと言われています。以前は奈良県御杖村にある自生地にその姿を見に行っていましたが、人の手が入った場所で本来の自生とは少し感じが違っていました。
クマガイソウは、北海道南部から九州の低山の森林(特に竹林、杉林など)に生育すると言われていますが、自生地は少なく、特に中部以西にはほとんど自生地が確認されていません。数年前に鈴鹿の山に群生地があることを耳にして一度は行ってみたいと思っていましたが、なかなかタイミングが合わず行けず仕舞いでした。御池岳の自生地は3箇所あるようですが、今回は一番株数の多そうな場所へ行ってみることにしました。
この日の山行き記録は、『カルスト台地の名峰(御池岳)』をご覧下さい。

クマガイソウの地下茎は節間が長く、全長は1m以上になることも多いと言われています。この群生地も林の急な斜面にあり、それなりの面積がありました。例年に比べると花数は少ないようで、一部盗掘されたのではないかとも言われています。ただ、この山域も斜面の崩落が多く、他の自生地の一部は土砂とともに流されたと言われています。自然の摂理で群生地が変動することは致し方ないと思いますが、できれば大切に保護されていくことを祈っています。
日本では環境省により、レッドリストの絶滅危惧II類(VU)の指定、多くの都道府県でもレッドリストの指定を受けています。
タキミチャルメルソウ(滝見哨吶草、学名:Mitella stylosa)は、環境省の2007年レッドリストまでは、絶滅危惧II類(VU)に指定されていました。現在も一部の都道府県で 絶滅危惧II類(VU) の指定を受けています。鈴鹿山脈の山々では比較的よく見かけます。
今回登りで歩いたコグルミ谷は、水の流れは少ないものの湿潤でブナの自然林に包まれた素晴らしい谷道です。植生も豊かで多くの花々が咲くことで知られています。クマガイソウ以外にもタキミチャルメルソウなど希少種を見ることもできます。花期終盤のイチリンソウやヤマブキソウ、咲き始めたオドリコソウやヒメレンゲ、クルマムグラなど可愛い姿を見せてくれました。
長命水からカタクリ峠にかけての斜面にもイワカガミやキランソウ、タニギキョウ、カタクリなどの花を見ることができます。









1980年(昭和55年)に田中澄江さんが、御池岳を花の百名山のひとつに選定した際、代表する花としてヤマエンゴサクを紹介しています。春先に花を咲かせ、新緑の頃には地上部は枯れてなくなり、翌春まで地下茎で過ごすスプリング・エフェメラルの一種です。

そして御池岳を代表する花のひとつにニリンソウ(二輪草、学名:Anemone flaccida)があります。真の谷や七合目辺りからいたるところで咲いているのを見かけますが、山頂部の台地(テーブルランド)一帯でも多く咲いています。御池岳のニリンソウは、他の地域よりピンクがかった小ぶりの花が特徴です。群生というより広範囲に散在しています。
御池岳の山頂部は、南北約3km、東西数百mの台地で「テーブルランド」と呼ばれています。石灰岩質の地質で、多くのドリーネ、池、カレンフェルトが点在するカルスト地形が見られます。植生も豊かで石灰岩帯特有の植物が多く見られます。
お目当てのクマガイソウに無事出会うことができました。シカの食害や斜面の崩落は、自然の営みの一環で人間が立ち入る必要はないと私は思います。ただ、盗掘や踏み荒らしは人間の自己中心的な欲求を満たすだけの行為で、決して許されることではないと思います。西日本では貴重な自生地が後世に受け継がれることを心から願っています。
