安全登山と自然保護(金剛山)
カトラ谷は、金剛山の中でもブナなどの原生林が広がる自然豊かな山域で、昔から多くの方が登られるルートです。しかし、周辺土壌は地質的に脆く、昔から崩落を繰り返していました。特に上流部の崩落は継続的に発生していたのですが、2017年10月の台風21号でその上流部が大崩落し土石流が発生しました。土石流は、谷の入り口付近まで土砂を運び、登山道の大半は崩壊してしまい、谷の様相を大きく変えてしまうことになりました。
崩落後早々に、林野庁(国有林のため)が土石流安全対策工事を発注して、岸尾産業(奈良県十津川村)が補修工事を施工しました。国定公園内なので自然環境と景観に配慮したワイヤネットでの工法を採用したようです。

大崩落以後、通行禁止の表示や自治体の注意喚起が行われましたが、カトラ谷に立ち入る人は後を絶ちません。強硬な通行禁止措置がなされていた私有地の寺谷ルートと違い、カトラ谷ルートは大半が国有林内です。管理を含め管轄官庁が通行禁止など明確な措置を行っていないこと、危険性の周知徹底が不十分なことも原因のひとつだと思います。

日本の山々の中で、金剛山は決して難易度の高い山ではありませんが、すべてが安全なルートではありません。沢登りなど特殊なルートだけではなく、多くの方が登られているルートの中にも危険個所はあります。標高が低いからといって、決して安全だという訳ではありません。自然を相手にする以上、いつも危険と隣り合わせだということを忘れないで下さい。
今冬もテレビでツツジ尾谷の氷瀑が紹介され、山に不慣れな多くの人が氷瀑を見に金剛山を訪れました。その結果、滑落事故が発生し救助隊が出動することになりました。ご存じのように、一ノ滝や二ノ滝周辺の巻き道は、道幅が狭くかなり荒れている上急斜面です。慣れている方でも足元には注意が必要なルートに安易な情報で人が集まった結果といえます。
また、記憶に新しい事柄として、2018年には、妙見谷でも大崩落があり、崩れた斜面を登攀中に男性一人が滑落死しました。それ以後、妙見谷入口には「入山禁止」のプレートがそれまでより目立つように設置されています。
花の季節を迎えカトラ谷でも、今冬のツツジ尾谷の事故や渋滞などが起こりえると思っています。
これまでグループでの投稿や自身のホームページで、立入禁止区域や注意喚起されている区域、補修個所や崩壊している登山道の通行を控えるなどをお願いしてきました。
その反面、花の季節のカトラ谷は、冬季の霧氷や氷瀑と同じく、金剛山を代表する見所のひとつです。やはり多くの人にその素晴らしさを見ていただきたい、知っていただきたいとも思っています。
『行くな』と言うのではなく、『より安全に、より自然を大切に、必ずルールを守って』をお願いした方が良いと思い4年ぶりに現状把握のため歩いてきました。
- トラバース区間を歩かれる際は、堆積した落ち葉や浮石、転石に十分気を付けて下さい。また、天候によって足元の状態が変わりますので、足元の確認は怠らないようにして下さい。
- トラバース区間には、ゴム製のバンドや鎖、ロープなどが設置されています。歩行の際、手にする必要もあると思いますが、決して体を預ける、頼ることはしないで下さい。昔から設置されていて朽ちている、支点が安全でないなどの問題が多くあり、安全を担保されることはありません。
- トラバース区間途中にある古い梯子は、見た目よりしっかりしていますが、設置されてから10年以上経っていると思われます。ロープや鎖もあるので十分安全を確保しながら登るようにして下さい。
- トラバース区間を歩く際は、人との間隔を十分取って下さい。特に梯子は、前の人が登り終えるまでは登らないようにして下さい。また、不慣れな方が前を歩いている時は、決して間合いを詰めないで下さい。そういった行為は、とても危険です。
- カトラ谷を始めて歩かれる方、特に山歩きに慣れておられない方は、経験者と一緒に登られることをお勧めします。
難易度が非常に高いルートではありませんが、安全なハイキングコースと言う訳ではありません。 - 山歩きに慣れておられないと思われる方、小さなお子さんを連れられた方、ご高齢の方などを見かけられた時、もし危険だと感じる時は、ご面倒ですが声をかけていただくこと、手助けするなどお願いします。
- 人出が多くなる期間(4月~5月の休日)は、できるだけ登りルートとして利用し、下ることは避けて下さい。トラバース区間での離合はとても危険です。また、余計な渋滞を発生させる原因になります。
- ワイヤネットの横を歩くと折角の補修個所を崩すことになっています。最初に登り易さだけでここを通った人の考えのなさの結果です。左側の尾根伝いに歩くのが補修個所を傷めない選択だと思いますが、現状では安全性が確保できないかもしれないので、できるだけ法面を削らないように登って下さい。
- もし、お花畑が目的であれば、是非、山頂側からアクセスして下さい。
山頂広場下の六地蔵尾根から下る道や青崩道77番電柱からの下る道(踏み跡が薄く、やや不明瞭)があります。
尚、六地蔵尾根からクリンソウ自生地への道は、崩落個所もあり危険なのでお勧めできません。 - 怪我や事故の際は、110番通報して下さい。その際、「D-数字」が書かれたプレート(写真1参照)との位置関係が分かればあなたの場所を特定しやすくなります。歩いている時にプレートを見ておくようにして下さい。
以下に、ルートガイドを作成してみましたので、どうしてもカトラ谷を歩きたい方は参考になさって下さい。尚、写真は4月10日に撮影したものです。(印刷用は、こちらをご利用下さい)








(一般的ではありませんが、沢を詰めることも可能です)
















カトラ谷は、金剛山の中でも自然が豊かで多くの山野草が自生しています。土石流が起こるまでは、谷全体が苔に覆われた緑豊かな渓流が続いていました。自然災害は避けることができませんが、自然は必ず自ら治癒してくれます。本当に金剛山が好きなら、折角の補修個所を踏み荒らすのではなく、修復されるまで待ってあげる優しさを持っていただきたいと思います。動植物の保護には神経質なくらい注意をはらうのと同様に、その動植物が暮らす山を、自然を大切にしてあげて下さい。
そして、金剛山でこれ以上事故が起こることは避けなければなりません。色々な技量の人が登る金剛山です…少しでも助け合って、誰一人として事故に遭わないようにしましょう。あくまで、自然が好き、山好きな一人の人間の意見でしかありませんが、是非、ご協力のほどお願いいたします。
尚、本文書はあくまで私見です。また、文中の誤字脱字や言葉遣いに失礼がありましたら、何卒ご容赦ください。
