天災と人災(金剛山)
今回歩いたわさび谷は、大崩落が続くカトラ谷に隣接する山域です。もともと地質的にも脆弱で崩落を続ける山域です。この一帯は国有林が多いのですが、土砂崩れが発生した後、砂防ダムは建設されていますが、登山道の補修はなされることがありません。植林地は間伐もされず崩落個所もそのままです。(トラロープが張られていますが、不十分で安心して頼れるものではありません。)
人が歩く道は、雨が降ると水の通り道となり侵食も進みやすくなります。浸食が進み露石や転石で歩き辛くなると人はすぐ傍の路肩を歩こうとします。そうすると路肩が崩れ登山道の崩壊が広がっていきます。地球温暖化の原因もあると思いますが、近年の台風や豪雨での被害も大きくなり、登山道の崩壊は各地で広がっているようです。
その他にも登山道や周辺の斜面が崩落する要因のひとつが、間伐されていない森にあると言われています。間伐しないと木は細く、根は浅いままで育つため、大雨が降ると地表の土砂が簡単に崩れてしまうそうです。
金剛山は、国有地と私有地が混在していて、登山道の管理や植生、自然保護を管轄する組織が明確ではありません。奈良県側は、山主さんが自主的に登山道の整備や駐車地の確保など尽力していただいています。それに反し大阪側では、寺谷や足谷など山主さんとのトラブルが絶えません。登山ブームもあり山を歩く人が増えていますが、登山技術を教える組織や団体はあっても、自然保護の大切さを教えることはなおざりにされています。
今回歩いたわさび谷の道は、古くから歩かれている道で、カトラ谷に隣接する辺りは自然林で豊かな自然環境が残されています。金剛山で有名なカタクリの自生地やバイケイソウ自生地も健在です。山頂付近から青崩道でセト方向に歩くと電柱のプレートに『72』と書かれた分岐が目に入ります。ここを左に下っていきます。
このカタクリの自生地は、斜面一帯足の踏み場もないくらいカタクリが自生しています。ちはや園地「かたくりの路」は植栽されたアメリカ種の近縁種と思われますが、個々のカタクリは在来種です。カタクリは、発芽から花をつけるまで約8年かかると言われています。踏み荒らさないように大切に見守ってあげて下さい。
カタクリの自生地から西側に歩き、植林地を抜けると再び自然林の森になります。開けた場所に出ると斜面にはバイケイソウの群生地が広がります。この開けた場所が、わさび谷の源頭部にあたります。わさび谷の本来のルートは、わさび谷を右手に見ながら道を進みますが、今回は源頭部からわさび谷を下降しました。
わさび谷源頭部は、水の流れはほとんどなく、斜面は砂利状で崩れやすくなっています。道があるわけではないので、谷を歩くことはお勧めできません。今回歩いてみて想像していたより源頭部の崩落は進んでいませんでした。植林地ではなく自然林の森であることが、崩落の進行を遅らせているのだと思われます。
わさび谷の源頭部から植林地に差しかかると谷の様相は一変します。傾斜がきつくなり転石が多く足元が不安定になります。原則、右岸側を歩きますが、植林地の斜面も砂地で崩れやすくなっています。踏み跡らしきものが残っていますが、それも斜面の崩落で寸断されています。源頭部より植林地内の方が崩落が進んでいました。
下の写真は、黒栂谷道からわさび谷に入る道に昔からある渡渉箇所です。本来のわさび谷ルートでは、ここを渡渉して対岸の尾根道に道が続いています。道を辿ると前述のバイケイソウの群生地に出合います。しかし、この日見た渡渉箇所は、崩落がひどくトラロープは張られていますが、危険な状態でした。この状態でトラロープを張ってまで歩くことが求められるとは思えないのですが・・
渡渉箇所から黒栂林道出合いまでの区間も登山道の崩落がかなり進んでいました。ここにもトラロープが張られたり、巻き道らしきものがありましたが、正直信用できるものではなく、専門的な補修がなければルートとして利用することは避けた方が良いと思います。人が歩けば歩くほど崩落は進むと思います。
わさび谷の登山道がこれほど崩落が進んでいるとは思っていませんでした。このルートの崩落は、人災というより自然災害的な要素が強いと思いました。ただ、カトラ谷なども同様ですが、崩落個所や補修個所を人が歩くことは、崩落を助長してより大きな被害をもたらします。そうなればまぎれもなく人災です。金剛山でも近年事故が多くなっています。また、地主さんとのトラブルも絶えません。山が好き、花が好きと言いながら、山を大切にしない方が多くなっていることが悲しいです。わさび谷は、尾根道もありますので、「わさび谷左岸尾根」を御利用下さい。
蛇足ですが、下記の写真はこの日撮影したものです。黒栂林道の途中、「釜谷中」の入り口です。昔から林業が盛んな山域(釜谷、釜谷中、タカハタ谷、ツツジ尾谷周辺)で、釜谷中の奥には作業機械などが残置されていました。数年ごとに行われる伐採作業もしくは治山事業の工事だと思われますが、登山ルートによっては通行できないこともありますので、注意して下さい。