自然治癒の素晴らしさ(キバナノショウキラン)
キバナノショウキランが自生するこの山域は、数年前に大きな自然災害(斜面崩壊)があり、自治体なども立ち入りを控えるようにと注意喚起しています。その影響もあり、以前よりはルート利用者も少なくなっています。補修工事が行われて数年がたった今日、少しずつ以前の緑豊かな山域に戻りつつあります。自然の治癒力は本当に素晴らしいです。
自然災害の多くは、ある意味自然が営む摂理です。その影響は、時間をかけて自然自身が治癒していきます。人にとっては災害であっても、自然にとっては必要なものもあると言われています。台風などで大木がなぎ倒されることで、林床に日差しが入り込みやすくなり、自然の食物連鎖のサイクルが保たれていたりします。人の生活に大きな影響がないのであれば、自然の成すがままにしておくことが自然保護の鉄則だと思います。
キバナノショウキラン
(黄花の鍾馗蘭、学名:Yoania amagiensis)
キバナノショウキラン(黄花の鍾馗蘭、学名:Yoania amagiensis)は、環境省の絶滅危惧1B類(EN)指定される極めて希少な植物です。昨年は見ることができませんでしたが、今年は5か所で芽吹いている姿を確認できました。元々、極めて個体数が少なく、この山域でも芽生える年もあれば、まったく確認できない年もありました。近年、大きな株が確認されたり、今年のように確認される個所数が増えたりしていることは、とても喜ばしいことです。光合成をせずに菌類から栄養を奪う腐生植物で多年草ですが、必ずしも毎年同じ株が芽吹くとは限りません。沢沿いや樹林下の日当たりが悪い湿った場所に生息しています。傷みやすい花には、ラン科特有の唇弁がありますがあまり目立ちません。その下に距(でっぱり)を発達させており、しゃくれた顎のように見えます。花の大きさは直径約2cmであまり開きません。花を構成する3枚の萼片(側萼片と背萼片)が開くと、道教系の神である鍾馗に似ていることが名前の由来になっています。地上から太い花茎が伸び、触ると柔らかい花が10数個上向きに咲きます。背丈は20cm前後です。受粉すると上向きだった花柄が下に倒れて結実します。関東から西に分布し、主に太平洋岸側で見つけられますが、極めて個体数は少なく滅多に見ることができない種です。
個体数が増えることは喜ばしいことですが、一方でヤマレコなどの情報サイトの無責任な情報公開も後を絶ちません。多くの人が山を楽しみ、花を楽しむための情報交換は、これからも自由に行われるべきだと思います。ただ、自分だけのためにむやみに情報を隠す「似非愛好家」も褒められたものではありませんが、ログ記録などまで一般的に公開することは、やはり不用意、不注意と言わざるを得ないと思います。貴重な自然の姿を後世に残すためにも、山を歩くなら最低限の知識と思慮を持ち合わせてほしいものです。サイト運営者のモラルも問われる時代です。